商社の仕事とは、取引先を見つけて条件を決める「営業」と、契約後に書類・通関・決済を回す「貿易事務」を軸に、1件の取引を最初から最後まで成立させる仕事です。
「商社は間に立って手数料を取っているだけ」と言われることがあります。実際に何をしているのかを工程に分解すると、その印象はかなり変わります。厚生労働省の職業情報提供サイト(job tag)には「商社営業」と「貿易事務」がそれぞれ独立した職業として収録されており、各タスクを実際に何%の人が担当しているかまで調査されています。
ここでは、その公的データとジェトロの貿易実務の流れをもとに、商社の仕事内容を具体的に見ていきます。商社という業態そのものについては商社とは?仕事内容・種類・メーカーや卸売業者との違いをご覧ください。
商社にはどんな職種があるか
job tagは「商社に勤める社員の多くが営業を担当している」と記しています。ただし、営業だけで取引が回るわけではありません。同サイトの貿易事務のページには、「企業によっては、法務・審査、財務・経理、保険、運輸・通関などの様々なセクションのスタッフとして、営業部門と連携して貿易事務を行っている」とあります。
業界団体である日本貿易会は、商社の機能を8つに整理しています。これが、そのまま部門の骨格に対応します。
| 機能 | 対応する仕事のイメージ |
|---|---|
| 商取引 | 営業(売り先・買い先を探し、条件を決める) |
| 情報・調査 | 市場調査、業界動向の分析 |
| 市場開拓 | 新規開拓、新商材の発掘 |
| 事業開発・経営 | 出資先の事業運営、グループ会社の管理 |
| リスクマネジメント | 与信審査、債権保全、為替ヘッジ |
| ロジスティクス | 輸送手配、在庫管理、通関の手配 |
| ファイナンス | 取引の資金繰り、金融機能の提供 |
| オーガナイザー | 複数社をまとめたプロジェクトの推進 |
さらに、日本標準産業分類は卸売業の本社機能として「組織全体の管理統括業務、人事・人材育成、総務、財務・経理、法務、知的財産管理、企画、広報・宣伝、調査・研究開発、生産・プロジェクト管理、不動産管理、情報システム管理、保有資機材の管理、役務・資材調達等」を列挙しています。商社にも当然、これらのコーポレート部門があります。
商社営業の仕事内容
job tagの「商社営業」のタスク一覧から、実施率の高いものを抜き出します(実施率=そのタスクを行っていると回答した人の割合、重要度=5点満点)。
| タスク | 実施率 | 重要度 |
|---|---|---|
| 仕入先との取引条件について交渉する | 96.2% | 3.1 |
| 商品についてリストを作成し、価格あるいは料金を設定する | 94.3% | 2.8 |
| 取引先の信用調査をする | 94.3% | 3.0 |
| 契約書を作成し、契約を結ぶ | 94.3% | 3.0 |
| 商品の運搬や引渡しの手配をする | 94.3% | 2.8 |
| 在庫を管理する | 88.7% | 3.1 |
| 市場動向を探るために情報を集める | 84.9% | 2.9 |
| 債権保全措置をとる | 83.0% | 3.2 |
| 製品の取引の案を作成し、供給側と購入側に提案する | 83.0% | 2.9 |
| 市場のニーズ等を踏まえて新商品を開発する | 77.4% | 3.0 |
| 為替相場の動向に注意を払い、為替差損を生じないようにする | 67.9% | 2.8 |
| 商品の通関手続きの手配をする | 66.0% | 2.7 |
※job tagには「実施順は必ずしもこの順番どおりにタスクが実施されているとは限らない」という注記があります。上表は実施率順に並べたもので、業務の順序を示すものではありません。
ここから読み取れることが3つあります。
1. 「取引先の信用調査」が94.3%、「債権保全措置」の重要度が3.2で最上位。商社の仕事の芯は、実は与信とリスクの引き受けです。相手が本当に払えるのかを調べ、払えなかった場合に備える。これが商社に依頼する最大の理由のひとつです。
2. 通関手続きは「手配」であり、実施率も66.0%と他より低い。ジェトロの整理でも、税関への申告主体は海運・通関業者です。商社が自ら通関するわけではなく、段取りをつける役割だという点は正確に押さえておきたいところです。通関そのものは通関とは?輸出入手続きの流れ・必要書類で解説しています。
3. 為替まで見ている。為替相場の動向に注意して差損を防ぐタスクを67.9%が実施しています。為替リスクとは?輸出入で為替変動が損益に与える影響と対策も合わせてご覧ください。
なお、job tagは商社営業の仕事について「大手商社の場合、取引の約半分は国内取引、残りの半分は貿易取引で、我が国の輸出・輸入だけでなく、我が国を経由しない外国と外国との第三国間取引も行っている」と記しています。「商社=海外」というイメージは、実態の半分です。第三国間取引については三国間貿易とは?仲介貿易との違いと外為法の注意点で解説しています。
貿易事務の仕事内容
同じくjob tagの「貿易事務」から、実施率の高いタスクを抜き出します。
| タスク | 実施率 | 重要度 |
|---|---|---|
| 取扱い商品の輸出入の許可や検査に関する手続きをする | 96.2% | 3.8 |
| 営業部門と連絡をとり、連携して行動する | 94.3% | 3.1 |
| 輸出入の許可や承諾、検査の必要の有無などに関する相手国と国内の法律を調査する | 94.3% | 3.7 |
| 契約書や輸出入に関する各種書類を作成する | 94.3% | 3.9 |
| 納期の管理や調整をする | 94.3% | 3.9 |
| 商品の到着予定や船便の運行状況を把握し、問い合わせに対応する | 92.5% | 3.9 |
| 貨物の通関手続きをする | 88.7% | 3.8 |
| 仕入先との交渉や調整をする | 86.8% | 3.8 |
| 統計品目コード(HSコード)の採番や管理をする | 83.0% | 3.1 |
| 安全保障貿易に関する確認をする | 79.3% | 3.1 |
| 輸入代金の支払い手続きをする | 79.3% | 3.6 |
| 信用状などにより信用リスクを管理する | 60.4% | 3.3 |
| AEO事業所として自主監査をする | 54.7% | 3.0 |
作成する書類として、job tagはインボイス、船荷証券、梱包明細書などを挙げています。それぞれ貿易書類の基礎、船荷証券(B/L)とはで解説しています。
注目したいのは、「安全保障貿易に関する確認」を79.3%、「HSコードの採番や管理」を83.0%が実施している点です。貿易事務は「書類を作る人」ではなく、その貨物を輸出してよいのか、関税分類は何かを判断する人でもあります。HSコードとは、外為法とはもご覧ください。
1件の取引で何が起きているか
ジェトロは貿易実務について、「商品、代金、書類と情報(届出)の流れが同時並行で動くため、この3つの流れを押さえておくことが重要」としています。輸出のケースで、その流れを見てみます。
| # | 誰が | 何をする |
|---|---|---|
| 1 | 輸出入の当事者 | 契約を締結する |
| 2 | 輸出者 | 海運・通関業者に貨物の通関および船積みを依頼する(船積依頼書) |
| 3 | 輸出者 | 輸出貨物を保税地域に運ぶ |
| 4 | 海運・通関業者 | 船積依頼書に基づいて税関に輸出申告を行う |
| 5 | 税関 | 必要に応じて書類審査・現物検査を行い、輸出許可を出す |
| 6 | 船会社 | 船積を行う |
| 7 | 船会社 | 船荷証券を発行し、海運・通関業者に渡す |
| 8 | 海運・通関業者 | 輸出許可書、船荷証券を含む船積書類を輸出者に届ける |
| 9 | 輸出者 | 為替手形に船積書類を添えた荷為替手形を銀行に提示し、決済する |
商社が担うのは、この全体の段取りです。契約前には営業が与信を確認して条件を詰め、契約後は貿易事務が書類と法令確認を回し、船が動き出したら納期とトラブル対応を見る。この工程のどこかが止まると、代金が回収できない——それが貿易の怖さであり、商社が引き受けている実務です。全体像は貿易取引の流れとは?取引先探しから決済まででも解説しています。
求められる知識・スキル
job tagの「しごと能力プロフィール」で、商社営業と貿易事務を比べると、必要な能力がはっきり分かれます。
| 項目 | 商社営業 | 貿易事務 |
|---|---|---|
| 交渉 | 4.2 | 3.6 |
| 説得 | 3.7 | 3.0 |
| 外国語を読む | 1.7 | 4.0 |
| 外国語で書く | 1.5 | 3.8 |
| 知識:輸送 | 2.2 | 3.1 |
| 知識:販売・マーケティング | 2.9 | 1.4 |
| 厳密さ、正確さ | 3.6 | 4.1 |
商社営業は交渉、貿易事務は語学と正確さ——という対比が数字で出ています。ただし商社営業の語学スコアが低いからといって、語学が不要というわけではありません。同じjob tagは、商社営業について「貿易取引は外国語での交渉が必要となるため、入職後に語学研修が継続して行われる」「入職後数ヵ月間は、貿易実務をはじめとする国際的なビジネス慣習等の研修が設けられている」とも記しています。
実務で必要になる主な知識は、次のとおりです。
- 貿易条件(インコタームズ):どこまでが売主の費用と危険負担か。最新版はインコタームズ2020(2020年1月1日発効)。コンテナ輸送ではFOB・CFR・CIFではなくFCA・CPT・CIPが推奨される点は実務上の重要ポイントです(インコタームズとは)
- 決済方法:L/C(信用状)、D/P・D/A、T/T送金の違いと、それぞれの回収リスク(貿易決済の方法とは?送金・信用状(L/C)・D/P・D/Aの違い、信用状(L/C)とは)
- 法令:外為法に基づく安全保障貿易管理。リスト規制とキャッチオール規制(補完的輸出規制)があり、該当すれば経済産業大臣の許可が必要とされています。なお補完的輸出規制は2025年10月9日施行で見直されており、制度の詳細は必ず最新の資料で確認してください(輸出入の規制・禁止品目)
- 関税分類:HSコードの特定。分類を誤ると納める関税額が変わります(関税とは)
資格としては、貿易事務の関連資格に通関士が挙げられています。「通関士など関係する資格があれば、貿易事務の関連部門に配属されることもある」とされています(貿易実務検定とは)。
まとめ
商社の仕事は、取引先を見つけて条件を決める営業と、契約後に書類・法令確認・通関・決済を回す貿易事務を軸に構成されます。
商社営業では「取引先の信用調査」を94.3%が実施し、「債権保全措置」の重要度が最も高い——つまり、商社の仕事の芯にあるのは与信とリスクの引き受けです。一方、貿易事務では「安全保障貿易に関する確認」を79.3%、「HSコードの採番や管理」を83.0%が実施しており、単なる書類作成ではなく判断を伴う仕事だとわかります。
自社で貿易実務を内製するか、商社に任せるかを考えるとき、この工程表は判断材料になります。どの工程を自社で持てるのかを見たうえで、足りないところをパートナーに任せる。それが現実的な進め方です。
よくある質問(FAQ)
Q. 商社の仕事は営業だけですか?
A. いいえ。厚生労働省のjob tagは「商社に勤める社員の多くが営業を担当している」としつつ、法務・審査、財務・経理、保険、運輸・通関などのセクションが営業部門と連携して貿易事務を行っている、とも記しています。日本貿易会は商社の機能を、商取引・情報調査・市場開拓・事業開発・リスクマネジメント・ロジスティクス・ファイナンス・オーガナイザーの8つに整理しています。
Q. 商社は自分たちで通関手続きをするのですか?
A. 通常は「手配」までです。job tagの商社営業のタスクも「商品の通関手続きの手配をする」(実施率66.0%)となっており、ジェトロの整理でも税関への申告主体は海運・通関業者です。
Q. 商社の仕事に語学力は必須ですか?
A. 職種によって求められる度合いが違います。job tagのスコアでは「外国語を読む」が商社営業1.7に対し貿易事務4.0。ただし商社営業も外国語での交渉が発生するため、入職後に語学研修が継続して行われるとされています。
参考・出典
- 厚生労働省「職業情報提供サイト(job tag)商社営業」 https://shigoto.mhlw.go.jp/User/Occupation/Detail/58
- 厚生労働省「職業情報提供サイト(job tag)貿易事務」 https://shigoto.mhlw.go.jp/User/Occupation/Detail/439
- ジェトロ「貿易実務の流れ|図解・貿易のしくみ」 https://www.jetro.go.jp/theme/export/basic/trading/procedure.html
- ジェトロ「インコタームズ2020|貿易・投資相談Q&A」 https://www.jetro.go.jp/world/qa/04C-070304.html
- ジェトロ「コンテナ輸送の貿易取引条件|貿易・投資相談Q&A」 https://www.jetro.go.jp/world/qa/04A-011002.html
- 経済産業省「安全保障貿易管理の概要」 https://www.meti.go.jp/policy/anpo/gaiyou.html
- 経済産業省「補完的輸出規制(キャッチオール規制)」 https://www.meti.go.jp/policy/anpo/catchall.html
- 一般社団法人日本貿易会「商社ハンドブック2020」 https://www.jftc.or.jp/research/handbook/pdf/202004.pdf
- 総務省「日本標準産業分類(平成25年10月改定)大分類I-卸売業,小売業」 https://www.soumu.go.jp/main_content/000300073.pdf
※本記事は公開日時点の公的情報にもとづく一般的な解説です。job tagの統計値は職業分類に基づく調査値であり、個別企業の実態を示すものではありません。
(公開日:2026-08-26/貿易ラボ編集部)


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